老猫が突然、
- 家具や壁にぶつかるようになった
- 瞳孔が開いたままになっている
- 足元がおぼつかない
- 以前と違う行動をするようになった
そんな変化があったとき、単に「歳をとったから」と考えてしまうかもしれません。
しかし、その背景に高血圧が隠れていることがあります。
猫の高血圧は、特に高齢猫で問題になりやすく、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症などに伴って発症することがあります。
そして怖いのは、血圧が高いことそのものよりも、高血圧によって目・脳・腎臓などが障害されることです。
とくに猫では、網膜剥離などによって突然目が見えなくなることがあります。
この記事では獣医師の立場から、
- 猫の血圧はどのくらいから高いのか
- 老猫の高血圧で見られる症状
- 高血圧を起こしやすい病気
- 高血圧と失明との関係
- 検査や治療
- 老猫は何歳から血圧を測った方がよいのか
について、できるだけわかりやすく解説します。
急に目が見えなくなった、瞳孔が開いたまま、けいれんやふらつきがある場合は、年齢のせいと決めつけず、早めに動物病院を受診してください。
老猫の高血圧とは?
猫の高血圧とは、全身を流れる動脈の血圧が持続的に高くなった状態です。
人と同じように、猫でも血圧が高い状態が続くと血管や臓器に負担がかかります。
猫の場合、問題となるのは主に収縮期血圧(SBP)です。
高血圧は若い猫でも起こる可能性がありますが、特に高齢猫で多くみられます。
ISFM(International Society of Feline Medicine)のガイドラインでは、高血圧と診断される猫の年齢中央値は13~15歳程度と報告されています。
つまり、老猫では決して珍しい病気ではありません。
さらに猫の高血圧は、それ単独で起きるというより、
- 慢性腎臓病
- 甲状腺機能亢進症
- 原発性高アルドステロン症
など、別の病気に伴って発生するケースが多いことも特徴です。
猫の血圧は何mmHgから高血圧?
ACVIMのガイドラインでは、犬猫の収縮期血圧を、臓器障害のリスクに応じて次のように分類しています。
| 収縮期血圧(SBP) | 分類 | 標的臓器障害のリスク |
|---|---|---|
| 140mmHg未満 | 正常血圧 | 最小 |
| 140~159mmHg | 前高血圧 | 低い |
| 160~179mmHg | 高血圧 | 中等度 |
| 180mmHg以上 | 重度高血圧 | 高い |
ひとつの目安として、160mmHg以上が持続している場合は高血圧を疑うことになります。
ただし、
160mmHgだった=その場で高血圧確定
という単純な話ではありません。
猫は非常に環境の変化に敏感です。
自宅では落ち着いている猫でも、
- キャリーに入れられる
- 車で移動する
- 知らない動物病院へ行く
- 保定される
といったストレスによって血圧が上がることがあります。
これは**状況性高血圧(いわゆる白衣高血圧)**と呼ばれます。
実際、猫では診察環境によるストレスで血圧が大きく変化することが知られています。
そのため、血圧の数値だけではなく、
- 複数回測定した結果
- 基礎疾患の有無
- 目や脳などに高血圧性障害がないか
などを合わせて判断する必要があります。
老猫が高血圧になったときの症状
高血圧そのものには、特徴的な症状がほとんどありません。
そのため、飼い主さんが高血圧そのものに気づくのは難しいでしょう。
問題になるのは、高い血圧によって臓器が障害されたときです。
代表的な症状には、
- 急に目が見えなくなる
- 家具や壁にぶつかる
- 瞳孔が開いたままになる
- 眼の中に出血が見える
- ふらつく
- まっすぐ歩けない
- けいれんする
- 元気がなくなる
- 行動が変わる
- 落ち着きがなくなる
などがあります。
特に注意したいのが、目の異常と神経症状です。
老猫ではこうした変化を、
「歳をとったから目が悪くなったのかな」
「認知症になってきたのかな」
と思ってしまうことがあります。
しかし、その背景に高血圧が隠れていることがあります。
【内部リンク:猫の認知症とは?】
高血圧で猫が突然失明することがある
猫の高血圧で特に知っておいてほしいのが、突然の失明です。
血圧が高い状態が続くと、目の奥にある細い血管が障害されます。
その結果、
- 網膜出血
- 網膜浮腫
- 網膜剥離
- 眼内出血
などが起こることがあります。
網膜とは、目に入った光を感じ取る重要な組織です。
この網膜が剥がれてしまうと、正常に光を感じることができなくなり、視力を失うことがあります。
飼い主さんが気づきやすいサイン
たとえば、
- いつもの場所なのに家具にぶつかる
- 段差を怖がる
- ジャンプしなくなった
- 暗い場所で動けなくなる
- 両目の瞳孔が大きく開いている
といった変化です。
特に、
「昨日まで普通だったのに、急に見えていないようだ」
という場合には、高血圧性網膜症を含む眼科的な緊急疾患を考える必要があります。
重度の網膜剥離や眼内出血では視覚障害が不可逆的になることもあるため、早期発見が重要です。
老猫で高血圧を起こしやすい病気
慢性腎臓病
高齢猫でもっとも重要な基礎疾患のひとつが**慢性腎臓病(CKD)**です。
腎臓と血圧には密接な関係があります。
腎機能が低下すると体内の血圧調節機構に影響が生じ、高血圧を伴うことがあります。
一方、高血圧が続けば腎臓の細い血管にも負担がかかり、腎障害を悪化させる可能性があります。
つまり、
腎臓病 → 高血圧
だけでなく、
高血圧 → 腎臓へのさらなるダメージ
という悪循環になる可能性があります。
【老猫の慢性腎臓病とは?症状・ステージ・治療・食事と自宅ケアを獣医師が解説 | 老猫QOL研究所】
また、
- 水をよく飲む
- おしっこの量が増えた
という症状がある場合も、腎臓病などの基礎疾患を調べることが重要です。
【老猫が水をよく飲む・おしっこが増えた|多飲多尿の原因と受診の目安を獣医師が解説 | 老猫QOL研究所】
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症も、高齢猫で注意したい病気です。
甲状腺ホルモンが過剰になることで代謝が異常に活発になり、
- 食欲があるのに痩せる
- 落ち着きがなくなる
- よく鳴く
- 心拍数が増える
- 水をよく飲む
などの変化がみられることがあります。
そして、一部の猫では高血圧を伴います。
特に、
「よく食べているのにどんどん痩せてきた」
という老猫では、年齢による体重減少と決めつけず、甲状腺機能亢進症なども考える必要があります。
【老猫が食べているのに痩せる原因|甲状腺・糖尿病・腎臓病を疑うサイン【獣医師解説】】
原発性高アルドステロン症など
猫では、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される原発性高アルドステロン症でも高血圧がみられることがあります。
CKDや甲状腺機能亢進症ほど一般の飼い主さんには知られていませんが、高血圧の原因を調べる際には検討される疾患のひとつです。
原因が特定できない場合もある
すべての高血圧猫で原因となる病気が見つかるわけではありません。
ISFMのガイドラインでは、最大約20%では明確な基礎疾患が確認されないとされています。
こうしたケースは、特発性あるいは原発性の高血圧として扱われます。
高血圧がダメージを与える4つの臓器

持続する高血圧によって障害される臓器を、獣医学では標的臓器(target organ)と呼びます。
猫では主に次の4つが重要です。
1.目
網膜出血や網膜剥離などが起こり、視覚障害や失明につながることがあります。
2.脳
高血圧によって脳が障害されると、
- ふらつき
- 見当識障害
- けいれん
- 行動変化
などの神経症状が起こることがあります。
高血圧の猫では、認知症に似た行動変化がみられる可能性がある点にも注意が必要です。
3.腎臓
腎臓の細い血管が高い血圧にさらされ続けることで、腎障害の進行に関与する可能性があります。
特にCKDの猫では、血圧だけでなく尿蛋白なども含めた評価が重要です。
4.心臓・血管
持続する高血圧は心臓にも負荷をかけます。
高血圧に伴って心筋の肥厚などが認められることもあります。
猫の血圧はどうやって測る?
猫の血圧測定は、多くの場合、人と同じようにカフを使って非侵襲的に行います。
動物病院では、
- 前足
- 後ろ足
- しっぽ
などに小さなカフを巻いて測定します。
猫ではドプラー法やオシロメトリック法などが使用されます。ISFMでは、意識のある猫における臨床的な血圧測定にはドプラー法が広く用いられているとしています。
重要なのは、できるだけ猫を興奮させないことです。
血圧は、
- 環境
- 保定
- 測定者
- カフのサイズ
- 測定部位
- 猫の姿勢
- ストレス
などによって変化します。
そのため通常は、静かな環境で猫をできるだけ落ち着かせ、複数回測定した値から評価します。
老猫の高血圧はどう治療する?
治療では大きく、
① 血圧そのものを下げる
ことと、
② 高血圧の原因となっている病気を治療する
ことの両方が重要です。
降圧薬による治療
猫の高血圧では、カルシウム拮抗薬であるアムロジピンが代表的な降圧薬です。
ACVIMおよびISFMのガイドラインでも、猫の高血圧治療でアムロジピンは第一選択薬として位置づけられています。
ただし、
- 血圧の高さ
- CKDの有無
- 尿蛋白
- その他の基礎疾患
- 治療後の血圧
などによって治療内容は変わります。
そのため、この記事では具体的な投与量については記載しません。
必ず獣医師の診断と指示のもとで治療してください。
また、降圧薬を開始した後も、薬を飲ませて終わりではありません。
血圧が十分に下がっているか、逆に下がりすぎていないかを確認するため、定期的な再測定が必要です。
老猫は何歳から血圧を測ったほうがいい?
症状が出てから高血圧を見つけるより、臓器障害が起きる前に見つけることが理想です。
ISFMでは、健康な猫について次のような血圧測定を推奨しています。
| 年齢・状態 | 血圧測定の目安 |
|---|---|
| 3~6歳 | 年1回程度を検討 |
| 7~10歳 | 少なくとも年1回 |
| 11歳以上 | 6~12か月ごと |
| CKDなど高血圧リスクがある猫 | より頻回に測定 |
つまり、7歳を過ぎた頃から健康診断の一環として血圧測定を考え、11歳以上ではより積極的にチェックするという考え方です。
特に、
- 慢性腎臓病
- 甲状腺機能亢進症
- 高血圧を起こし得る内分泌疾患
などがある猫では、年齢に関係なく血圧チェックが重要です。
こんな症状があったら早めに動物病院へ
老猫で次のような症状がみられた場合には、できるだけ早く動物病院へ相談してください。
特に急いで受診したいサイン
- 急に目が見えなくなったように見える
- 家具や壁に突然ぶつかるようになった
- 瞳孔が大きく開いたまま
- 眼の中に出血が見える
- 急にふらつくようになった
- けいれんした
- 意識や反応がおかしい
- 急激な行動変化がある
こうした症状は高血圧だけでなく、他の眼科疾患や神経疾患でも起こります。
だからこそ、
「歳だから仕方がない」
と様子を見るのではなく、原因を確認することが大切です。
よくある質問
猫の血圧が160mmHgなら必ず治療が必要ですか?
必ずしも1回の測定だけで治療が決まるわけではありません。
猫では病院でのストレスによって血圧が上昇することがあるため、複数回の測定や基礎疾患、標的臓器障害の有無などを総合的に判断します。
一方、持続的に160mmHg以上となっている場合には、臓器障害のリスクを考慮した評価が必要です。
高血圧になっても猫は普通に生活できますか?
適切に血圧をコントロールできれば、日常生活を維持できる猫は多くいます。
ただし、高血圧はCKDなど他の病気に伴っていることが多いため、血圧だけでなく基礎疾患も含めて管理する必要があります。
高血圧による失明は治りますか?
網膜障害の程度や治療開始までの期間などによって異なります。
すでに重度の網膜剥離などが起きている場合、視力が戻らないこともあります。
そのため、失明してから高血圧を発見するのではなく、老猫の段階から定期的に血圧を測ることに意味があります。
まとめ|老猫では「血圧を測る」こと自体が大切
猫の高血圧は、見た目だけでは気づきにくい病気です。
しかし高血圧が続けば、
- 目
- 脳
- 腎臓
- 心臓・血管
などにダメージを与える可能性があります。
特に老猫では、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症などに伴って高血圧が起きることがあります。
そして猫では、高血圧による網膜剥離から突然失明することがあることを覚えておいてください。
「最近よく物にぶつかる」
「瞳孔がずっと開いている」
「急に行動がおかしくなった」
そんな変化を単なる老化と決めつけないことが大切です。
また、症状がなくても高血圧は存在します。
特に11歳以上の老猫や、慢性腎臓病などの基礎疾患がある猫では、健康診断の際に「血圧も測った方がいいですか?」と獣医師に相談してみるとよいでしょう。
老猫のQOLを守るためには、病気になってから治療するだけではなく、まだ症状がない段階で異常を見つけることも大切です。
参考文献
医学的な出典としては、以下の3つを記事末に掲載するのがおすすめです。
- ACVIM consensus statement: Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats
ACVIMガイドライン - ISFM Consensus Guidelines on the Diagnosis and Management of Hypertension in Cats
ISFMガイドライン - International Renal Interest Society(IRIS):Systemic Hypertension
IRIS 高血圧解説

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