老猫が水をよく飲む・おしっこが増えた|多飲多尿の原因と受診の目安を獣医師が解説

「最近、水皿の減りが早くなった気がする」

「猫砂の塊が以前より大きい」

「歳をとったから、水をよく飲むようになるのは普通なのかな?」

老猫と暮らしていると、このような変化に気づくことがあります。

猫が水を飲むこと自体は、もちろん悪いことではありません。

しかし、以前と比べて明らかに水を飲む量や尿の量が増えている場合は、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症、糖尿病などの病気が隠れていることがあります。

特に高齢の猫では、「歳のせいかな」と思っていた小さな変化が病気の初期サインだった、ということも珍しくありません。

この記事では、

  • 老猫が水をよく飲むときに考えられる原因
  • 「多飲多尿」とはどのような状態なのか
  • 自宅でチェックしておきたいポイント
  • 受診した方がよいタイミング
  • 動物病院で行われる主な検査

について解説します。

大切なのは、「何mL飲んだら病気」と数字だけで判断するのではなく、その猫自身の普段の状態からの変化を見ることです。


目次

老猫が水をよく飲むのは「歳のせい」?

高齢になると体にはさまざまな変化が起こります。

だからといって、

「老猫だから水をよく飲むのは普通」

と考えてしまうのはおすすめできません。

高齢の猫で飲水量や尿量が増えた場合、まず考えたい病気のひとつが**慢性腎臓病(CKD)**です。

慢性腎臓病では、腎臓が尿を濃くする能力が低下してくると、薄い尿を大量に出すようになります。

すると体から失われる水分が増えるため、それを補おうとして水をたくさん飲むようになります。

つまり、

腎臓病だから水を飲む

というより

尿として水分が失われるため、それを補うために飲む

と考えるとわかりやすいでしょう。

ただし、水をよく飲む原因は腎臓病だけではありません。

甲状腺機能亢進症や糖尿病など、高齢猫でみられるほかの病気でも多飲多尿が起こります。

そのため、症状だけで「腎臓病だ」と決めつけないことも重要です。

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猫の「多飲多尿」とは?

動物医療では、

  • 水をたくさん飲むことを多飲
  • 尿の量が増えることを多尿

と呼びます。

そして、この2つはセットでみられることが多いため、多飲多尿と呼ばれます。

多くの場合は「多尿」が先に起きる

病気による多飲多尿では、

尿の量が増える

体から水分が失われる

水分を補うためにたくさん飲む

という流れになっていることがあります。

そのため、「たくさん水を飲ませたから尿が増えた」とは限りません。

体が必要としているから飲んでいる可能性があります。


「何mL飲んだら飲みすぎ?」数字だけでは判断しにくい

飼い主さんが一番気になるのは、

「1日に何mL飲んだら異常なの?」

という点かもしれません。

猫が必要とする水分量には体重による目安がありますが、水皿から飲んだ量だけでは評価できません。

なぜなら、猫は食事からもかなりの水分を摂っているからです。

たとえばウェットフードには多くの水分が含まれているため、ウェットフード中心の猫は水皿からあまり飲まないことがあります。

一方、ドライフード中心の猫では、水皿から摂る水の割合が多くなります。

さらに、

  • 気温
  • 運動量
  • フードの種類
  • ウェットフードの割合
  • 多頭飼育
  • 水をこぼした量

などによっても、家庭で測定できる飲水量は変わります。

そのため私は、家庭で老猫を観察するときには絶対的な数字だけではなく「その子のいつもと比べてどうか」を重視してほしいと考えています。


自宅で気づきやすい多飲多尿のサイン

毎日正確に水を計量していなくても、多飲多尿に気づけることがあります。

水皿の減りが早くなった

以前なら1日もっていた水が、途中でかなり減っている。

水を交換するとすぐに飲みに来る。

こうした変化はひとつのヒントになります。

水を飲みに行く回数が増えた

量だけでなく、

「最近よく水皿の前にいるな」

という行動の変化も重要です。

蛇口、浴室、洗面台など、以前はあまり興味を示さなかった場所の水を欲しがるようになる猫もいます。

猫砂の塊が大きくなった

固まる猫砂を使っている場合は、飲水量よりむしろこちらの方が気づきやすいことがあります。

  • 以前より尿の塊が大きい
  • 大きな塊の数が増えた
  • 猫砂の交換頻度が増えた

といった変化がないか確認してみましょう。

トイレの尿量が明らかに増えた

システムトイレの場合でも、

  • シートが以前より早く濡れる
  • 交換頻度が増える

などから変化に気づける場合があります。


多頭飼いでは「誰が飲んでいるか」に注意

多頭飼いでは、

「水がすごく減っている」

と気づいても、どの猫が飲んでいるのかわからないことがあります。

同じトイレを共有していれば、尿量の把握も難しくなります。

気になる猫がいる場合は、可能であれば一定時間だけ生活スペースやトイレ、水皿を分けて観察する方法もあります。

ただし、環境を変えること自体が老猫のストレスになる場合もあります。

無理に正確な数値を測ろうとするより、

「以前との変化を獣医師に伝えられる程度に記録する」

くらいから始めるとよいでしょう。


老猫が水をよく飲むときに考えられる主な病気

1.慢性腎臓病

高齢猫でまず確認したい病気のひとつです。

慢性腎臓病では腎機能が徐々に低下し、腎臓が尿を濃縮する能力も低下していきます。

その結果、

  • 尿量が増える
  • 水をよく飲む
  • 体重が減る
  • 食欲が落ちる
  • 嘔吐する
  • 毛づやが悪くなる
  • 元気がなくなる

といった変化がみられることがあります。

ただし、慢性腎臓病の初期には目立った症状がない猫もいます。

「最近少し水を飲むようになった」という段階で検査を受けることが、早期発見につながる場合があります。

慢性腎臓病について詳しく知りたい方へ

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2.甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症も、中高齢の猫で多くみられる病気です。

甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が必要以上に活発になります。

代表的な症状には、

  • 食べているのに痩せる
  • 食欲が異常に増える
  • 水をよく飲む
  • 尿が増える
  • 落ち着きがなくなる
  • よく鳴く
  • 嘔吐や下痢
  • 心拍数が増える

などがあります。

特に、

「よく食べるのに痩せてきた」+「水をよく飲む」

という組み合わせでは、甲状腺機能亢進症も鑑別に入ります。


3.糖尿病

猫の糖尿病でも、多飲多尿は代表的な症状です。

血糖値が高くなり、腎臓で処理しきれなくなったブドウ糖が尿中に出るようになると、その糖に引っ張られる形で水分も尿へ排出されます。

その結果、

尿量が増える

体から水分が失われる

喉が渇いてたくさん飲む

という状態になります。

糖尿病では、

  • 水をよく飲む
  • 尿量が増える
  • 食欲があるのに痩せる

という組み合わせがよくみられます。

進行した猫では、後ろ足のかかとを地面につけるような特徴的な歩き方がみられることもあります。


4.その他の原因

多飲多尿は、この3つの病気だけで起こるわけではありません。

たとえば、

  • 高カルシウム血症
  • 一部の肝疾患
  • 尿路や腎臓の病気
  • 一部の薬剤の影響
  • そのほかの内分泌・代謝性疾患

などでも起こることがあります。

したがって、「水を飲む=腎臓病」と自己判断するのではなく、必要に応じて血液検査や尿検査を行い原因を調べることが大切です。


「水をよく飲む+ほかの症状」も確認しよう

水を飲む量だけを見るのではなく、一緒に起きている変化も確認してみましょう。

一緒にみられる変化考えられる病気の例
食欲があるのに痩せる甲状腺機能亢進症、糖尿病など
食欲低下+体重減少慢性腎臓病など
異常によく食べる甲状腺機能亢進症、糖尿病など
嘔吐が増えた慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症など
落ち着かない・よく鳴く甲状腺機能亢進症など
後ろ足の歩き方がおかしい糖尿病性神経障害など

ただし、この表だけで病気を診断することはできません。

複数の病気が似た症状を示しますし、高齢猫では複数の病気を同時に抱えていることもあります。


こんな場合は動物病院へ

「昨日より少し多く飲んだ気がする」というだけで緊急受診する必要はありません。

しかし、

  • 明らかに水を飲む量が増え、その状態が続いている
  • 尿量が以前より増えている
  • 体重が減ってきた
  • 食欲が落ちた
  • 食べているのに痩せる
  • 嘔吐が増えた
  • 元気がない
  • 毛づやが悪くなった
  • 行動が以前と変わった

といった変化がある場合は、一度動物病院で相談することをおすすめします。

特に老猫では、症状が軽いうちに病気を見つけられることには大きな意味があります。


「何度もトイレに行くのに尿が出ない」は別問題

ここは非常に重要です。

「尿量が増えた」ことと、「何度もトイレへ行く」ことは同じではありません。

何度もトイレへ行って排尿姿勢をとっているのに、

  • ほとんど尿が出ない
  • 数滴しか出ない
  • 苦しそうに力んでいる
  • 鳴いている

という場合は、多尿ではなく排尿困難の可能性があります。

特に雄猫では尿道閉塞が起こることがあります。

尿道閉塞は命にかかわる緊急疾患です。

「トイレに何度も行っているから尿がたくさん出ているんだろう」と思い込まず、実際に尿が出ているかを確認してください。

尿が出ていない、あるいはほとんど出ていない場合は、様子を見ず動物病院へ連絡してください。


動物病院ではどんな検査をする?

多飲多尿の原因を調べる場合、症状や年齢などに応じて検査を組み合わせます。

身体検査

まず、

  • 体重
  • 体格
  • 脱水の有無
  • 心拍数
  • 甲状腺の状態
  • 腹部の状態

などを確認します。

以前の体重記録があれば、少しずつ痩せていないか比較できます。


血液検査

血液検査では、

  • 腎機能
  • 血糖値
  • 電解質
  • 肝臓に関する項目
  • カルシウム
  • 貧血の有無

などを確認します。

慢性腎臓病が疑われる場合には、クレアチニンやBUNに加えてSDMAなどが評価されることもあります。


尿検査

多飲多尿の評価では尿検査が非常に重要です。

特に確認したいのが尿比重です。

尿比重を調べることで、腎臓がどの程度尿を濃縮できているかを評価する手がかりになります。

また、

  • 尿糖
  • 尿蛋白
  • 潜血
  • 尿沈渣
  • 必要に応じて尿培養

などを調べることがあります。


甲状腺ホルモン検査

中高齢猫で、

  • 痩せてきた
  • 食欲が増えた
  • 多飲多尿がある
  • 心拍数が速い

などの症状がある場合、**血中T4(甲状腺ホルモン)**を測定することがあります。


血圧測定や画像検査

症状や検査結果によって、

  • 血圧測定
  • 超音波検査
  • X線検査

などを追加することもあります。

特に慢性腎臓病の猫では高血圧を合併することがあるため、血圧測定が重要になる場合があります。


受診前に記録しておくと役立つこと

動物病院を受診する前に、可能な範囲で次のことを記録しておくと診察の参考になります。

  • いつ頃から水をよく飲むようになったか
  • 1日の飲水量(測れる場合)
  • 飲水回数の変化
  • ドライフードかウェットフードか
  • ウェットフードをどの程度食べているか
  • 尿の回数
  • 猫砂の塊の大きさ
  • 食欲
  • 体重の変化
  • 嘔吐や下痢
  • 活動性の変化
  • 現在飲んでいる薬やサプリメント

数日分でも構いません。

写真や動画が役立つこともあります。


水を飲みすぎていても、水を減らしてはいけない

水をよく飲む姿を見ると、

「こんなに飲むなら、水を少なくした方がいいのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、自己判断で飲み水を制限しないでください。

慢性腎臓病や糖尿病などでは、尿として失われた水分を補うために水を飲んでいる場合があります。

そこで水まで制限してしまえば、脱水を悪化させる可能性があります。

原因がわからない段階でも、基本的にはいつでも新鮮な水を飲める状態にしておきましょう。


「水を飲めているから大丈夫」とも限らない

反対に、

「自分で水を飲めているから、まだ大丈夫」

とも言い切れません。

多飲は、体が失った水分を補おうとしているサインかもしれないからです。

水を飲めることは大切ですが、

なぜ以前より多く水を飲むようになったのか

を見る必要があります。

特に、

  • 多飲多尿
  • 体重減少
  • 食欲の変化

が重なっている老猫では、一度検査を検討してよいでしょう。

食事をとらず、水だけ飲んでいる場合はこちらの記事も参考にしてください

老猫がご飯を食べないけど水は飲む|「水だけ」は最期のサイン?獣医師が解説

まとめ|「いつもより水を飲む」は老猫からの大切なサイン

老猫が水をよく飲むようになったとき、

「歳だから仕方ない」

と決めつけないでください。

一方で、

「水をよく飲む=腎臓病」

とも限りません。

慢性腎臓病だけでなく、甲状腺機能亢進症や糖尿病などでも多飲多尿は起こります。

家庭で最も大切なのは、厳密な数値を追いかけることよりも、

その子の「いつも」と比べて変わっていないか

を見ることです。

水皿の減り方。

猫砂の塊の大きさ。

体重。

食欲。

普段一緒に暮らしているからこそ気づける小さな変化があります。

老猫の病気は、わかりやすい症状が出てから始まるとは限りません。

「そういえば最近、水をよく飲んでいるな」

その気づきが、病気を早く見つけるきっかけになることがあります。


参考情報

※本記事は一般的な獣医学情報を提供するものであり、個々の猫の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、かかりつけの獣医師に相談してください。


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この記事を書いた人

40代の獣医師です。現在は企業で品質コンプライアンス(法令遵守)の責任者を務める傍ら、自宅で17歳になる愛猫(雌)の現役介護に奮闘しています。

「獣医学的な正論」だけでは解決できない、シニア猫との暮らしのリアル。専門知識を日々の生活にどう落とし込むか、そして飼い主としてどう心を守るか。

コンプラ担当らしい「論理性・誠実さ」と、飼い主としての「温かさ」を大切に、愛猫との時間が少しでも穏やかになる情報を発信しています。

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