【獣医師解説】病院嫌いな老猫に無理はさせない。17歳と暮らす私が決めた「通院頻度」と「自宅チェック」の基準

こんにちは。獣医師の「とく先生」です。

私には獣医師としての顔の他に、もう一つの大切な顔があります。それは、17歳になるハイシニア猫の飼い主という顔です。

愛猫のためを思って動物病院に連れて行ったのに、帰宅後、疲れ切ってぐったりしている姿を見て胸が締め付けられたことはありませんか? 「病気を治すために連れて行ったのに、これでは逆に寿命を縮めているのではないか……」 その悩み、痛いほど分かります。私も日々、自分の愛猫に対して同じ葛藤を抱えているからです。

シニア期、特に15歳を超えた猫にとって重要なのは、病気を根治する「治療」よりも、今日一日を穏やかに過ごせる「QOL(生活の質)」である場面が増えてきます。

この記事では、獣医師としての知識と、一人の飼い主としての経験を交えながら、「無理な通院を減らすための判断基準」と「プロが行う自宅チェック法」についてお話しします。


目次

なぜ老猫にとって「通院」がリスクになり得るのか【獣医師の視点】

「可哀想だから病院に連れて行きたくない」というのは、決して飼い主さんの甘えではありません。実は獣医学的な視点から見ても、老猫への過度な通院ストレスは無視できないリスクを孕んでいます。

通院ストレスが体に与える生理的ダメージ

猫は環境の変化に非常に敏感な動物です。キャリーケースに入れられ、車や電車で揺られ、知らない匂いのする病院で保定される。この一連の流れは、猫の体内で急激なストレス反応を引き起こします。

  • 血圧の急上昇: 高血圧は、弱っている腎臓や心臓にさらに強い負荷をかけます。
  • 免疫力の低下: ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌により、一時的に免疫機能が下がることがあります。
  • 食欲廃絶: 繊細な子は、帰宅後数日間ご飯を食べなくなることがあり、老猫にとって数日の絶食は致命的になりかねません。

これらは精神的な問題だけでなく、物理的に体を蝕む要因になり得るのです。

「寿命を延ばすこと」と「苦痛なく過ごすこと」の天秤

17歳を超えた私の愛猫に対してもそうですが、私はある段階から「検査数値を正常に戻すこと」よりも「今日、機嫌よくご飯を食べられたか」を重視するようにしています。

もちろん治療は大切ですが、病院に行くことで体力を使い果たし、家での穏やかな時間を奪ってしまっては本末転倒です。「何かあったらすぐ病院」ではなく、「この症状なら家で休ませたほうが回復が早いかもしれない」という選択肢を持つこと。それがハイシニア期における愛情の形の一つだと私は考えています。


私が決めている「即・病院」と「様子見」の境界線(トリアージ)

とはいえ、病気の発見が遅れるのは怖いですよね。そこで、私が実際に基準にしている「迷わず病院へ行くべきサイン(Red Flags)」と「自宅でケアできるサイン(Yellow Flags)」をご紹介します。

これが出たら迷わず病院へ!危険なサイン(Red Flags)

以下の症状が見られた場合は、ストレスを考慮しても優先的に受診する必要があります。これらは急変の予兆であり、自宅での様子見は危険です。

  • 安静時の呼吸数が異常: 眠っている時やリラックスしている時に、1分間の呼吸数が30~40回以上ある場合。胸やお腹を大きく動かして息をしている場合は緊急事態です。
  • 急激な体重減少: ダイエットをしていないのに、1ヶ月で体重の5%以上が減っている。
  • 排尿がない: 24時間以上おしっこが出ていない場合は、尿道閉塞や急性腎不全の可能性があり、命に関わります。

そして、見落としがちなのが「動き」の変化です。

▶ 加齢のせいだと諦めないでください。他にも「歩き方の変化」などは見逃せないサインです。

自宅でケアしながら様子を見るケース(Yellow Flags)

一方で、以下の場合は慌てて病院へ走らず、まずは自宅で「厳密な監視」を行うことが多いです。

  • 元気はあるが単発の嘔吐: 吐いた後にケロッとしていて、食欲もある場合。
  • 軟便だが食欲はある: 下痢をしていても、元気に動き回り、ご飯を欲しがる場合。

ここで言う「様子見」とは「放置」ではありません。「変化があったらすぐ動ける態勢で、注意深く見守る」という能動的なケアであることを忘れないでください。


通院回数を減らすための「自宅バイタルチェック」3つの習慣

通院回数を減らすためには、飼い主さんが「自宅で簡易的な診察」を行えるようになることが最強の武器になります。私が普段行っている3つのチェックを真似してみてください。

①「呼吸」と「心拍」のモニタリング

老猫の健康状態が最も顕著に現れるのが呼吸です。 愛猫が深く眠っている時に、胸の上下運動を数えてください。「吸って、吐いて」で1回です。

  • 正常値の目安: 1分間に20回~30回程度 これが安静時にも関わらず常に早い場合は、心臓や肺に負担がかかっているサインです。日頃の正常値を知っておくことで、異常にすぐ気づけます。

②「脱水」と「粘膜」のチェック

慢性腎臓病の多い老猫にとって、脱水は大敵です。

  • スキンテント(皮膚つまみ): 背中の皮膚を軽くつまんで持ち上げ、パッと離します。すぐに戻れば正常ですが、戻るのに数秒かかる、テントの形のまま残る場合は脱水しています。
  • 歯茎の色: 指で唇をめくり、歯茎の色を見ます。綺麗なピンク色ならOK。白っぽい(貧血)や、どす黒い赤色などの場合は要注意です。

③「排泄物」と「行動」のログ

トイレ掃除の際は、ただ砂を捨てるのではなく「検品」してください。

  • おしっこの塊(ボール)の大きさはいつも通りか?(小さすぎる、または巨大すぎるのは異常)
  • トイレに行く回数が増えていないか?

こうした記録があれば、いざ受診が必要になった時も、獣医師に正確な情報を伝えられます。

▶ もし自宅での判断が難しく、プロの助言が必要な場合は「往診」や「オンライン相談」も選択肢です。以下の記事で詳しく解説しています。


24時間の監視は不可能…だから私は「テクノロジー」に頼る

仕事中や就寝中、私たちが目視できない時間に愛猫がどう過ごしているか、不安になることはありませんか? 私は人間の目の限界を補うために、積極的にテクノロジーを活用しています。

人間の目よりも正確な「データ」が愛猫を守る

「なんとなく元気がないんです」と獣医師に伝えるより、「普段15時間の睡眠が、ここ3日は18時間に増えています」と伝える方が、診断の精度は格段に上がります。 客観的なデータは、言葉を話せない猫の代弁者となってくれます。

私が導入している「見守りセット」

私が実際に17歳の愛猫に使っているのは、首輪型のデバイス(Catlog)と見守りカメラの併用です。 Catlogで「活動量・食事・水飲み」のデータを自動記録し、異常値のアラートが来たらカメラで様子を確認する。この体制を作ってから、外出中の不安が激減しました。


まとめ:「病院に行かない」という選択を「愛」にするために

老猫介護において、病院に行かないという選択は決して「手抜き」ではありません。 それは、飼い主であるあなたが「ホームドクター」になる覚悟を持って、愛猫の一番近くで体調管理をするという、深い愛情の表れです。

  • 危険なサイン(Red Flags)を見逃さない
  • 日々のバイタルチェックを習慣にする
  • テクノロジーの力も借りて見守る

正しい知識とツールがあれば、自宅は愛猫にとって「世界で一番安心できる病室」になります。 不安な気持ちで過ごすのではなく、正しい観察眼を持って、残された愛猫との時間を穏やかな愛情で満たしてあげましょう。今日から早速、寝ている愛猫の呼吸数を数えるところから始めてみてくださいね。

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この記事を書いた人

40代の獣医師です。現在は企業で品質コンプライアンス(法令遵守)の責任者を務める傍ら、自宅で17歳になる愛猫(雌)の現役介護に奮闘しています。

「獣医学的な正論」だけでは解決できない、シニア猫との暮らしのリアル。専門知識を日々の生活にどう落とし込むか、そして飼い主としてどう心を守るか。

コンプラ担当らしい「論理性・誠実さ」と、飼い主としての「温かさ」を大切に、愛猫との時間が少しでも穏やかになる情報を発信しています。

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