深夜2時、3時。終わりの見えない鳴き声に、つい声を荒らげてしまった。そんな自分を責めて、スマホを握りしめているあなたへ。まずは深呼吸してください。あなたは十分頑張っています。
1. 「優しくなれない夜」があってもいい
深夜、静まり返った家の中に響き渡る愛猫の叫び声。 何をしても鳴き止まず、寝不足で頭がぼんやりし、仕事にも支障が出る。そんな日が続くと、あんなに可愛かった愛猫に対して「もう、うるさい!」と黒い感情が芽生えてしまうことがあります。
実は、獣医師である私にも、17歳の愛猫と向き合う中で「優しくなれない夜」がありました。 これはあなたが冷酷なのではなく、「睡眠」という生命維持に不可欠な要素を削られていることによる、動物としての正常な防衛反応です。
この記事では、愛猫の睡眠の質を上げると同時に、あなたの心身を守るための具体的な戦略を、獣医師の視点から論理的にお伝えします。
2. なぜ鳴くのか?原因を切り分ける
老猫が夜に鳴く理由は、単なる「わがまま」ではありません。まずは、身体に痛みが隠れていないか、病気による興奮ではないかを確認する必要があります。
- 甲状腺機能亢進症: ホルモンの過剰分泌で、エネルギーが余り、異常に興奮して鳴く。
- 高血圧: 頭重感や違和感から不安になり、大声で鳴く。
- 関節痛: 寝返りを打つたびに痛みが走り、眠れない。
- 認知機能不全(認知症): 昼夜の逆転や、場所が分からなくなる不安。 (ここまで)
まずは動物病院で血圧測定や血液検査を受けてください。病気が原因なら、薬一つで夜が静かになることも珍しくありません。
我が家の17歳猫の場合: うちの猫も夜中の徘徊が始まりましたが、血液検査で甲状腺の数値が少し高めであることが判明。投薬を始めたところ、夜の興奮が目に見えて落ち着きました。
3. 睡眠環境の最適化


「痛くない」「不安じゃない」環境を整えるだけで、猫は深く眠れるようになります。
体圧分散マットと安心感
老猫は筋力が落ち、骨が当たって痛むようになります。
- 高反発・体圧分散マット: 褥瘡(床ずれ)を防ぎ、関節への負担を減らします。
- 包み込む形状のベッド: 縁(ふち)があるタイプは、身体が固定されるため、加齢で平衡感覚が落ちた猫に安心感を与えます。
体内時計をリセットする
日中の「日光浴」が最強のサプリメントです。午前中にしっかり日光を浴びさせることで、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌を促します。
我が家の17歳猫の場合: 窓際に低いステップを作り、自力で日向ぼっこができるスペースを確保しました。これだけで夜の寝つきが格段に良くなりました。
4. 日中と寝る前の戦略
夜に寝かせるためには、日中に「心地よい疲れ」を、寝る前に「満足感」を与えることが重要です。
- 日中の適度な刺激: 遊ぶのが難しくても、ブラッシングやマッサージ、窓の外を見せるだけで脳への刺激になります。
- 寝る前の「夜食」: 猫は空腹になると覚醒しやすくなります。寝る直前に少量のウェットフードや、消化に良い夜食を与えることで、「お腹がいっぱいだから寝よう」というモードへ導きます。
5. 飼い主の「防衛策」:共倒れを防ぐコンプライアンス
ここが一番大切なポイントです。 「猫を一人にさせてはいけない」「耳栓をして無視するのはかわいそう」という罪悪感は、今すぐ捨ててください。


私の仕事であるコンプライアンス(法令遵守)の観点から言えば、介護における最大の違反は「共倒れ」です。
- 物理的遮断: 寝室を分け、ドアを閉める。
- 耳栓・ホワイトノイズ: 猫の鳴き声の周波数をカットする。
- 環境音: 換気扇の音や雨の音を流し、愛猫の声を意識の遠くに追いやる。 (ここまで)
あなたが倒れたら、猫を守る人はいなくなります。明日の朝、笑顔で『おはよう』と言うために、今夜は耳栓をして深く眠る。それは、愛猫への誠実な義務です。
6. 薬やサプリメントを味方につける
「薬に頼るのはかわいそう」と考える方も多いですが、現代の獣医療において、これらは「猫のQOL(生活の質)を上げるツール」です。
- フェリウェイ: 猫をリラックスさせるフェロモン製剤。
- サプリメント: 認知機能をサポートするDHA/EPA、不安を和らげるテアニンなど。
- 投薬: 鎮静作用のある薬や、不安を抑えるお薬。
薬を使うことは、猫を眠らせることではなく、猫の不安を取り除いてあげることです。
結び:愛猫の幸せは、あなたの健康の上に成り立つ
老猫の介護は、マラソンです。それも、ゴールがどこにあるか分からないレースです。 あなたがボロボロになって走る姿を見て、猫が喜ぶでしょうか。
猫は、飼い主の感情にとても敏感です。 あなたがしっかりと眠り、心に余裕を持って接すること。それこそが、シニア期の猫にとって最も安心できる環境整備なのです。
「打てる手」はまだあります。一人で抱え込まず、私たち獣医師も頼ってくださいね。
今日はひとまず、温かい飲み物を飲んで、耳栓を準備しませんか? もし、猫ちゃんの今の症状で気になることがあれば、いつでもコメントや相談をしてください。一緒に最適な解決策を探していきましょう。
次のステップとして、今の猫ちゃんの様子(何時ごろに、どんな風に鳴くか)をメモしてみることから始めてみませんか?

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